提橋和男の新管理人のつぶやき

(2008/08/18)


提橋和男の新☆管理人のつぶやき 1095_2

挑戦、男たちの詩(82)-2

北島のつぶやきA

【頂上対決】北島康介vsブレンダン・ハンセン(競泳男子平泳ぎ)
2008.8.3 19:50
2007年世界水泳・男子100メ−トル平泳ぎの決勝レ−スを終え、優勝したハンセン(右)と健闘をたたえ合う2位の北島康介=メルボルン(共同)
2007年世界水泳・男子100メ−トル平泳ぎの決勝レ−スを終え、優勝したハンセン(右)と健闘をたたえ合う2位の北島康介=メルボルン(共同)


昇気流に乗った北島康介とがけっぷちのブレンダン・ハンセン。4年前のアテネ五輪を含め過去数年にわたり死闘を繰り広げてきた競泳男子平泳ぎの2強は、明暗を分けた状態で今大会を迎える。

2大会連続で百メートルと二百メートルの2冠を目指す北島は今季、故障が少なかったオフのトレーニングの成果から、6月のジャパン・オープンで百メートルの日本記録を更新、二百メートルにいたってはハンセンの記録を0秒99も縮める2分7秒51という世界新記録も樹立した。「自信になった。金メダルしか頭にない」。日本のエースは目を輝かせる。

一方のハンセンは、7月上旬まで行われた米国の五輪代表選考会で、百メートルこそ優勝して五輪出場権を獲得したものの、「世界記録を奪い返す」と誓ったはずの二百メートルは4位。約1カ月前までは世界記録保持者だった米国の平泳ぎのエースが、五輪出場権を逃したのだから、精神的ダメージは計り知れないだろう。

二百メートルについては、北島が今年の世界ランキングで2位のリカード(豪州)に2秒差をつけ、独走状態にある。だが、百メートル、二百メートルとも、北島にはまだ伸びしろがありそうだ。英スピード社の高速水着「レーザー・レーサー」(LR)を着用して臨んだジャパン・オープンでは、試合に向けての調整が十分ではなかった時期にもかかわらず、両種目で記録を更新した。試合に合わせた状態でLRを着用する五輪の舞台ではどんな記録が出るのか、期待は高まる。

とはいえ、楽観ばかりもしていられない。アテネ五輪では、百メートル、二百メートルとも勝利を収めた北島だが、2005年以降の直接対決では5戦5敗。そのうち、3敗が百メートルのレースだった。ハンセンの持つ百メートル59秒13の世界記録は北島の自己ベストを0秒31上回る。

上半身の強さが武器のハンセンの泳ぎは、二百メートルよりも百メートルに向いていると指摘する声もある。だが、今大会で出場する個人種目が百メートルしかないという事実が、精神面が課題といわれるハンセンに、どう影響するのか。ハンセンを指導するエディー・リース・コーチは「彼は58秒台で泳ぐと言っている」と語るが、練習は百メートルに集中できる一方、プレッシャーは強くなるだろう。

競泳の日本代表男子主将を務める北島と同じように、ハンセンも米国男子代表の主将の1人に選ばれた。2人の戦いは日米のチームの勢いを決めるうえでも重要になる。(橋本謙太郎)
■北島とハンセンの比較表
北島康介               ハンセン
1982年9月22日   生まれ  1981年8月15日
178センチ、73キロ  サイズ  183センチ、86キロ
59秒44        自己記録  59秒13
59秒44        今季記録  59秒24
東京都          出身地  米国ペンシルベニア州
                      ※記録は百メートル平泳ぎ

レーザーレーサーをめぐる戦い ミズノの上治丈太郎専務
2008.8.4 08:06

6月のジャパンオ−プンでLRを着た北島康介選手
6月のジャパンオ−プンでLRを着た北島康介選手

「2分7秒51」。東京辰巳国際水泳場の電光掲示板が“世界最速”を示すと、平泳ぎ二百メートルの北島康介(25)は両腕を振り上げ、そのまま水中に仰向けに倒れ込んだ。6月8日、競泳ジャパンオープン。英スピード社の「レーザー・レーサー(LR)」を着て初めて挑んだ。ライバルのブレンダン・ハンセン(米国)が持つ世界記録を一気に0・99秒も縮めた。

北島と個人契約を結び、五輪出場を物心ともにサポートしてきたミズノの専務、上治(うえじ)丈太郎(61)は、その瞬間をプールサイドで複雑な心境で見守っていた。ジャパンオープンで日本新17個のうち16個はLRを着用した選手がつくった。まさに“魔法の水着”だった。

上治はLRの着用を巡り前日まで北島と対話を繰り返した。「ミズノには申し訳ないが、いまはスピードに手応えを感じている」と言葉を選びながら五輪でのLR着用を訴える北島。上治は揺れた。「契約上はミズノの水着を着なければならない。だが、北島君は何年も自分の時間を犠牲にして五輪を目指し、国民の期待を背負って北京に行く。一企業のエゴを押しつけてもいいものだろうか」

世界新を目の当たりにした翌日、思い悩んだ末、北島に伝えた。

「北島君、五輪では自分の気に入った水着を自由に選んでいいよ」

全力で続けたサポートなのに、他社の水着着用を認めることになるとは…。「それは、本当に苦渋の決断だった」。

北島康介選手のLR着用を認めるのは「苦渋の選択だった」と話すミズノの上治丈太郎専務=7月31日、ミズノ東京本社
北島康介選手のLR着用を認めるのは「苦渋の選択だった」と話すミズノの上治丈太郎専務=7月31日、ミズノ東京本社

世界の注目が集まる五輪はスポーツ用品メーカーにとっても“主戦場”だ。トップ選手が自社製品を着用すれば、ブランドイメージはもちろん、関連商品の売り上げ向上につながる。

北島にミズノを着てもらうために払った契約金は「100万、200万円ではない」。北島がミズノから他社に乗り換えることは大きな痛手だ。

契約に反して違約金も取らないなんて前例は作れない。(同じくミズノの)室伏広治がアシックスを履きたいと言いだしたらどうするんだ」。社内からは批判も上がったが、上治は「北京だけの特例」と丁寧に説得。営業の「北島がミズノを着た(販売促進用の)ポップをもう販売店に配ってしまった」との苦情には「回収してください」と頭を下げた。

「ミズノの判断は正しかった。懐の深いところを見せた」と世論も後押し。株主総会も事なきを得た。しかし、「もっと時間があれば、LRをしのぐ水着を作ることができた」と不完全燃焼の感はぬぐえない。

LRに使われるのは、複数の素材を貼り合わせた積層素材。昨年11月、国際水泳連盟はそれまで禁止されていた積層素材の使用を容認した。情報収集不足により日本メーカーが開発に出遅れ、日本水連から水着の改良を指示されたのも5月初旬。与えられた開発期間は3週間しかなかった。

「どうすれば、コンマ何秒でもタイムが縮まる水着ができるのか」。試作品を作っては、松田丈志や中野高らミズノ所属の五輪代表に着せてラップを測り、さらに改良を加えるという−試行錯誤を繰り返した。水着の性能が高まっていく実感はあったが、3週間後に発表したのは「100パーセント満足の行くものとは言い難かった」。

日本の競泳陣の多くがLR着用で挑むが、北島との“伴走の糸”は途切れてしまったのか。上治はそうではないという。

「LRは北京だけ。そこで得た感触をミズノの商品開発に役立てる」。2人の約束だ。アテネに続く2冠を目指す北島、スピード社に負けない高速水着開発に動き出した上治。世界一に向けた2人の戦いは続いている。=敬称略