|
提橋和男の新☆管理人のつぶやき 983-2
僕は運命を信じない
田中耕著
元プロボクサー坂本博之さんは、福岡県川崎町生まれ。物心ついたころには両親が離婚。預けられた親類宅では食事することを許されず、川でザリガニなどを食べて飢えをしのぎました。小学2年のとき、福岡市の児童養護施設「和白青松園」に入園、初めて三食の食事と寝る場所を与えられました。
高校卒業後、東京都内のボクシングジムに入門。過去4度、世界タイトルマッチに挑戦し、いずれも敗れましたが、元WBA世界ライト級王者・畑山隆則さんとの試合ではボクシング史上に残る名勝負を演じています。
いじめによる自殺、児童虐待などが相次ぐ中、坂本さんは「どんな環境や境遇に生まれようとも、生きてさえいれば人は前に進むことができる」と訴えます。本書は、絶望の中でも夢を追い続け、はい上がってきた坂本さんの壮絶な半生を通じて、「生きる」という意味を問いかけた内容です。
240ページ/四六判/上製/定価1,575円
ISBN978−4―8167―0710―0 C0075
2007年1月24日発行(西日本新聞社)
読者の声
2007年02月19日
日々日常『僕は運命を信じないー不滅のボクサー坂本博之物語』
田中耕著。西日本新聞社。登山家以外の本棚。
大阪出張に向かう飛行機の中で一気に読んだ。久しぶりに心が揺さ振られたいい本だった。九州以外の人にも是非読んでほしいので、ここに紹介する。
周知のとおり、彼は幼少時代両親の離婚によって親戚に家に弟と預けられ、1日に給食の1食しか食べられない虐待を受けた後、養護施設に預けられる。そこで見たボクシングの試合が目に焼きつき、「これでここから抜け出せる」と思った彼は、施設を出て家族と上京後、中学、高校を経てボクシングジムに入る。
その後紆余曲折を経て何度か世界タイトルに挑戦するも、敗退。そのうち椎間板ヘルニアを患い、3年以上ブランクをあけたが、入院先で必死に頑張る少年の姿に心打たれ、苦しいリハビリに耐え見事復活。しかし、脳のむくみで体も限界にきて、2007年1月とうとう引退。その後はトレーナーとして、ジムを子供でも気軽に通える場所にするため、全国の養護施設を講演してまわるという。
彼の偉いところは、かなり悲惨な状況になっても、決して周りのせいにしないところ。親、親族に対しても恨み節は一切吐かない。そんな彼が言う言葉には、苦労人ならではの重みがある。
「言い訳をして生きてはいけないんだよ」
「『大変だ』というのは、ぜいたくができないときに吐く言葉じゃない。食べ物も買えず、食っていけなくなったときに言うせりふじゃないだろうか」
「オレは感謝だらけの男だから」
「(へルニアで入院中、他の患者さんを見て)オレのちぃっちゃいころの経験とか全部吹っ飛んじゃったね。オレなんてほんとちっぽけな人間なんだと。何不自由なく生きていくことがどれだけ幸せなのか。どれだけぜいたくか。みんなに分かってほしいよね。感謝しなくちゃいけないよ」
「どんなことでもあきらめない。そうすれば必ず夢はつかめる。僕は世界チャンピオンにはなっていないけど、自分自身に嘘はつかずにやってきた。後悔はない。真っ白に燃え尽きた」
なんだか読んでいて恥ずかしくなる。われわれの世代は「貧乏くじ世代(香山リカ)」と言って、厳しい受験戦争や就職難、リストラは経験しながら、バブルも終身雇用も知らず、割に合わないと嘆いている人ばかりなのだが、じゃあわれわれは同世代の坂本氏のような境遇だっただろうか。彼のような前向きな姿勢で自分を高める努力をしてきただろうか。自分だって、愚痴や言い訳ばかりこぼして「そんな中どうするか」ということにまだまだ真剣になっていないではないか。
誰もが彼のように生きていけるわけではない。しかし、平凡な中でも前向きに生きていけば必ず希望はある。「僕は運命を信じない」という言葉どおり、運命は定められたものではなく自分の手で切り開くものだという、当たり前ながら忘れてしまう事実を真正面から突きつけられたいい本だった。
このほかすばらしい言葉は沢山あるが、最後にずしんときた言葉。
「これからも僕が僕であり続けるため、どんな困難が起きようとも必ず立ち上がってみせる。教科書通りのちっぽけな人間で終わりたくない。神様が僕を立ち上がってほしくないというならば、僕の息の根を止めるしかない」
尊敬します。世界チャンピオンになれなかたのは残念だけど、あなたは本当に強かった。今後の活躍も心より期待します。
←挑戦、男たちの詩71
|